小檜山 賢二
人間の目と脳は、昆虫の全体像を理解していない。日常の中で目にする昆虫は、美しいと感じようと醜悪に感じようと、”小さな生物”としてか認識されない。
また、電子顕微鏡に見る複眼や触覚も、非現実的なまでに拡大された”一部分”にすぎない。
通常の写真では、昆虫の全体にピントを合わせることは不可能である。
そこで、デジタル画像によって、昆虫の姿を正確に拡大・再生することを思いついた。
昆虫の各部を20カッと以上も撮影し、デジタルデータに変換したポジフィルムをコンピューター上で合成する、という方法である。
被写体としてゾウムシが選ばれた理由は、この甲虫の持つ多様性にある。世界各地で確認されているゾウムシは6万種に及び、中にはユニークな擬態を見せるものも多い。
そうした多様性を持つ昆虫を、ゾウムシというひとつのグループとして捉える人間の認識にも興味をおぼえている。
ゾウムシの姿に見る多様性と共通性は、人間にとっての言語に相当すると思う。そこには、「ハードウェアで多様化する昆虫と、ソフトウェア=脳で多様化する人間」という図式が成立する。
芸術としての作品を意図しているわけではない。自然界の存在を、可能なかぎり“きれいに”見せようと思うだけである。このゾウムシを美しいと感じることは、自然の本質とは美しいものだ、と認識することにほかならないと考える。
Step-1
ストロボが取り付けられた一辺20cmほどの小さな撮影台で、ゾウムシを撮影する。
任意の部分にピントを合わせ、何十カットも撮影していく。
Step-2
ゾウムシの体長は、数ミリから30ミリ程度。被写界深度が浅くなるため、全体にピントの合った写真の撮影が不可能な、小さな被写体である。ピンが刺されている部分も、後の合成作業で修正が施される。
Step-3
被写体を固定してカメラ位置を変えていく場合と、スキャニングカメラの要領で、カメラ位置を変えずに被写体を移動させる場合がある。
前者ではパースのついた作品が、後者ではパースのつかない作品ができあがる。
Step-4
撮影したポジフィルムの中から20~30枚を選び出し、フィルムスキャナーでデジタルデータに変換する。
その画像データを、コンピューターに取り込んでいく。
Step-5
コンピューターに取り込んだ画像の中から、ピントの合っている部分を選んで切り取って いく。
それらの画像を合成した後、さらに調整、修正を加える。
Step-6
プリントアウトされた段階では、A4サイズの作品となる
・1942年 東京生まれ
・1967年 慶応義塾大学工学部電気工学科修士課程修了。
日本電信電話公社入社。電気通信研究所において、ディジタル無線通信方式の研究に従事
・1976年 工学博士(慶応義塾大学)、
・1992年 無線システム研究所(現ワイヤレスシステム研究所)所長
・1993年 電気情報通信学会業績賞(平成5年度)
256QAMディジタルマイクロ波方式の開発
・1995年 逓信協会前島賞(平成7年度)受賞 PHSの開発
・1996年 NTT-AT社専務取締役
・1997年 慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科
教授 著書:「日本の蝶・続日本の蝶」(山と渓谷社)、「鳳蝶」(講談社)、「パーソナル通信のすべて」(NTT出版)など
Home Page: http://www.wnn.or.jp/wnn-x/kohiyama/
(小檜山賢二氏のご厚意により、氏のHome Page より引用いたしました)
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